ふゆのよる。あるいは最後の忘年会。

陽気な声に送られて、店を出る。

酒から生まれた、うわっすべりな言葉達と、酒に隠した本音の言葉達は、けっして交わることはなくて、その場にすべて置いていくのが、こんな仕事絡みの酒宴の作法だと気付いたのは、いつからだろうか。

乾杯と、実の無い褒め言葉と、いくつかの決まり文句が繰り返される。

それでも、そんな時以外には、感謝の言葉さえ聞くことのない乾いた心には、少しは沁みるのかも知れないと、近頃は思うようになった。

手締めの音で、場は変わる。

衿を直し、ネクタイを結びなおして幾つかのグループは散っていく。

「二次会行こう、二次会行くぞ」と揺れながら、乱れた服装のまま、歩き出す人はひとりきりで、振り向く酔眼に映る人影は無くて、ため息をつく。

風に煽られた新聞紙が足に絡み、振り払おうとよろけて手をつく、電信柱は冷たい。

「なんでかなぁ・・・、なんでこうなったのかなぁ・・・」

見上げる空には、昔から、ひとつだけ見分けがつく星座だった、オリオンの三ツ星が光る。

「係長、お付き合いしまっせ」

「おぉ、行くか、俺のおごりだぁっ!」

下から腕を組むように支えて、歩き出す冬の街にイルミネーションが瞬く。

「来年の忘年会はないんだなぁ・・・」

春に定年を迎えるその人が、ぽつりとつぶやく。

終電まで今日は一緒にすごそう。

入社した時に、文房具を揃えてくれて、所属の名札を渡してくれた人だから。そして、私の愛称を勝手に決めてしまった人だから。肩書きは今日までそのままだったけど。

今日は最後の忘年会。

もう少し、言葉を受け取っていよう、私でよければ。