夜の雨

夜の雨は、闇の中に降る。

中上健次の小説に「赫髪」がある。この作品を原作として神代辰巳監督が当時人気絶頂だったロマンポルノの女王、宮下順子主演で「赤い髪の女」という題名で映画も撮っている。主人公は石橋蓮司なのだが、俗に言うその当時の日雇い肉体労働者なので、雨の日は仕事がない。

雨の降る日は、一日セックスをする。あるいはセックスをする時はいつも雨が降っている。

小説を読んだとき、私はまだ高校生で処女だった。粘液と性器をこすり合わせ、汗にまみれ、まとわりつくような肌の感触を私自身が体験したような感覚があって、それまで読んだ中上作品の背景に流れる、吉野の山奥の湿度の高い風景とあいまって、鳥肌が立った。

そして、原作とは若干違うのだが、「男」と「女」の営む行為を画面に延々と映す映画では、戦いながら一瞬だけひとつの塊となり、快感は共有したとしても、互いの快感の極みを体感すことは叶わないその行為に、畏敬の念を持った。

その恐怖にも似た感覚は、岡崎京子の「Pink」や、菜摘ひかるの「風俗嬢菜摘ひかるの性的冒険 」を読んだときにも感じたのだけれど、ある意味、私の「性」、或いは、肌の感覚の原点になった。

今日のような雨の夜には、思い出しながら読む、中上健次がよく似合うし、BGMには長谷川きよしの「黒の舟歌」や、憂歌団やウエストロードブルースバンドがよく似合う。

少なくなったブッカーズをストレートで一杯だけ飲んでから、今日は眠ろう。明日はまた、それなりに有能な組織の一員を装うためにも。闇の中に降る夜の雨に感謝しながら。

おやすみなさい。